CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第21回 (株)キシノ 平成20年4月1日より、高速キシノ(株)に社名変更

これからの営業は、御用聞きでは駄目です

取材先 (株)キシノ 平成20年4月1日より、高速キシノ(株)に社名変更(代表取締役 木住野博史)

所在地 八王子市小門町53番地

電話 042-625-3333

e-mail info@kishino.co.jp

私たちが普段何気なく手にする音楽CDやパソコンソフト。最近はパッケージも含めて機能的なものやビジュアル系のものなど、バラエティ豊かだ。こうした各種メディアのデータ焼付けからパッケージデザイン、マニュアルなどを一手に提供する会社が、株式会社キシノである。かつて繊維業を営んでいたキシノが、どうやって時代のニーズに即した業態へと変貌したのか。その一端を営業部長の木住野博史(きしの・ひろし)さんとマルチメディア事業部統括ディレクターの尾崎正行(おざき・まさゆき)さんに伺った。

 

 

繊維業界から、時代の流れを敏感にとらえた見事な業種転換を果たす

八王子が織物のまちとして栄えていた大正3年、キシノの前身となる木住野信治商店は織物用の生糸の撚糸加工、販売業として創業した。やがて織物産業が衰退の道を歩み始めると、キシノも少しずつ業態転換を図り出す。30年ほど前からは工業製品を梱包する際の緩衝材などの包装資材の加工を請負うようになり、また、大手企業からのパッケージングの委託などを受けるようになった。そうした事業展開をする中、「これからは、直販ができないと厳しい」と感じるようになっていた。

 そして、IT時代を迎えパソコンが普及してくると、これからパソコンソフトに関わるパッケージや販促グッズに対するニーズが高まると感じ、平成8年にマルチメディア部を開設した。こうしてキシノは、パソコンソフト用のパッケージや販促グッズを主体とする今の業態の基礎を築いたのだ。

 

 

新規参入ゆえの苦労

企業が新たな分野に参入するということは、並大抵の苦労ではない。全くといって良いほど実績が無い中での営業では、門前払いもしばしばあったという。それでも木住野さんや尾崎さんは、粘り強く営業活動を展開した。そうした営業努力を続ける中で大手ゲームソフトメーカーと出会い、マルチメディア部門の初業績へとつながる。3年に及ぶ粘り強い営業が功を奏し、ソフトウェアのパッケージ制作を受注することができたのだ。

「後発でもやっていけるのは、特徴を打ち出すことと、熱意、誠意しかないですね。」と、木住野さん。ひとたび大手との取引実績ができると、営業活動もしやすくなる。今では、有名アーティストの音楽CDケースや、インテル社製品のパッケージなどメジャーな製品のパッケージを手がけている。

 

 

キシノの強み――それは、メディアのプレスから出荷まで一括で提供できること

大手印刷会社や広告代理店が製品パッケージ等の制作を受注すると、完成までに平均5~6社が制作過程に関わる。キシノも、もともとはその内の一社であった。そこでは最終的な「お客様」-パッケージ・ユーザーと制作サイドにはほとんど接点はない。

「互いに顔が見える中で制作すれば、もっと良いものが作れるはずだ」。木住野さんは、ユーザーの声を反映しやすい直販へと業態変更を試みていく。

 キシノの仕事は、クライアントとの企画打ち合わせから始まる。商品の付加価値をより高めるためのパッケージデザイン、機能性、加えてより販売促進につながる販売戦略、販促グッズの提案など、様々なアイデアを提供していく。方針が決まると、2、3週間で一気に出荷まで持っていくのだ。それだけに、クライアントとの打ち合わせにはかなりの時間を当てる。一日に4回もクライアントとの間を往復することもあるという。この提案力と機動力が、キシノの最大の魅力である。

また、キシノは一括受注を実現するために、常に10社ほどの会社とパートナーシップを築いている。印刷一つとっても、商品によっては得手不得手がある。「今回のお客様にとって一番良い製品を作るには」という観点から、パートナー各社の力を総合的に判断し、製品ごとのチームを作る。そういうマネジメント能力にも長けているのである。しかし、キシノとパートナー会社の関係はいわゆる受発注関係とは少々異なる。「あくまでパートナーとして、対等な関係を保つことが重要なんです」。キシノにとって重要なのは、パートナー会社との信頼関係なのだ。

 

提案力を高めるために、常にアンテナを高く!

マルチメディア事業部の尾崎さんは、営業力についてこう語ってくださった。「これからの営業は、御用聞きでは駄目です。様々な発想をもって提案していくことが大切です」。
 キシノのアイデアマンである尾崎さんは、営業周りをしながら常にアンテナを高く広く張っている。「うちは商社ですから、専門分野になると分からないことが多い。だから、営業をしながら、又はパートナー企業と折衝しながアイデアをふくらましていくんです」。面白い製品を持っていながら活用方法や販路が分かっていない企業もある。すると、それをキシノ独自のブランドで売り出すこともある。そうして成功したものも少なくない。例えば、最近流行っているカード型CDは、某大手商社とともに国内で一番早く目をつけ、NTT九州の販促グッズとして活用した実績もある。そのカード型CDは、「晴れの門出」というが、ウィットに富んだネーミングもキシノの得意とするところである。

 

 

そして自社製品にもチャレンジ!

もちろん、キシノには自社開発製品もある。中には特許や実用新案を取得している商品もあり、環境に配慮した紙製のCDトレーや、「90円でCDを送れます」が売り文句の郵送用トレーなど、培ったノウハウから自社製品を生み出している。

今後の展開について、木住野さんに伺ってみた。「インターネットから様々なソフトをダウンロードで購入できる時代とはいえ、音楽CDやDVDなどの現物を所有していたいという欲求はあるはずです。その時、パッケージはやはり魅力の1つでしょう。だからこそ、今後もパッケージを主軸として頑張っていきたいですね」と抱負を語ってくれた。

「まだまだ、やるべきことはあるが、ようやくこの業界に片足くらいは踏み入れたかな」と、自信を覗かせる木住野さん。今後も、クリエイティブなパッケージを世に送り出してくれることだろう。

 
編集後記
(株)キシノを訪れると、某有名歌手のCDパッケージやポスター、パソコンソフトのパッケージが目に入る。「えっ、これもキシノさんが手がけたんですか?」と思わず言ってしまうほどだった。販促グッズも様々で、それぞれに独特のネーミングがなされている。ほとんどが、尾崎さんが名付け親らしいが、「一度聞いたら、覚えてもらえるんですよ」とネーミングの大切さを語ってくださった。
 キシノの強みは、メディアのプレスから、出荷まで一貫して行なえることだが、非常に厳しい面もある。パソコンソフトを購入すると、ユーザー登録葉書が入っていて、必ず固有の登録番号が振られている。こうした、番号管理、マニュアル作成など、全てを賄っているのだから大変だ。もしも、不備があったりすると、それはキシノがクレームを受けることになる。そういった厳しい面もあるが、“楽しそうに”商品説明をしてくださった姿が印象的であった。これからもユーザーを「あっ!」言わせるような、パッケージが出てくることだろう。
(取材日2002年9月25日)