CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

元気な企業インタビューとは

 八王子市で活躍する元気な企業をご紹介いたします。“キラリ”と光る独自の技術やユニークなサービスで注目の企業経 者にインタビュー。 人物上や体験談にスポットを当てた地域企業の発信コーナーです。企業の実力の詳細が掲載されていることから、お客様のニーズに見合った パートナー先を的確に探すことが出来ます。
 「@Co.Hachioji」の内容は、資本金、業種、従業員といった一般的に見られるデータベース的な紹介ではなく、過去のエピソードや得意とする技術話など、 社長の人物像を中心に読み物的に紹介されております。紹介企業の内容が分かりやすく掲載されており、これを起点にビジネスに発展したケースが数多く出ております。

第105回 株式会社開拓使

『窮地の時こそ、挑戦を』

取材先 株式会社開拓使(代表取締役 北澤秀彦 氏)

所在地 東京都八王子市明神町3-9-1

電話 042-649-1724

URL kaitakushi.co.jp

2020年、新型コロナウィルス感染症の世界的拡大。以後、これまで私たちが経験したことがなかった出来事が次々に起こっている。日本政府による緊急事態宣言、外出自粛要請、教育機関の休校、リモートワーク…etc。経済界では全ての業種が打撃を受け業績の低迷を余儀なくされているが、とりわけ甚大な被害を受けている業種の一つが飲食店である。特に感染者数が多い東京都では、営業自粛要請や時短営業の要請が求められた。今まさに窮地に立たされている飲食店。いまだ収束が読めない状況の中、生き残りをかけどのように試行錯誤しているのか。株式会社開拓使 北澤社長よりお話を伺った。

  代表取締役 北澤 秀彦 氏

                 

大手居酒屋チェーン退職~創業まで

大手居酒屋チェーン店で多摩エリアを中心に35店舗を統括するエリアマネージャーを務めていた北澤社長。時に外食企業ならではの様々な社内事情もあって退職を決意し、一念発起して自分の店を持つ事となった。当時の心境を振り返ると、「いざ開業しようと思ったときに、いわゆる大企業のセクショナリズムではないが、今までの自分の知識と経験の幅の狭さをとことん思い知らされた。」とのこと。仕入れ一つとっても実際に生産者や業者との直接的なつながりもなく、当然経理や資金調達の知識も乏しく、物件取得のために何をしたらいいのかさえ分からず愕然としたそうである。

しかし、「自分についてきてくれた仲間たちを路頭に迷わせる訳にはいかない。」との一念から、退職を決意してわずか4か月後の2014年1月には「けいの家八王子本店」を1号店として明神町にオープンする。このスピード感溢れる決断力と実行力。後述するが、これこそ北澤社長の最大の強みと言える。

 

けいの家1号店(八王子市明神町)

 

1件のクレームから生まれたご縁

現在の「けいの家」のウリと言える八王子産野菜を使ったメニューの原点。それは意外にも開業して3か月後の1件のクレームから生まれた。

開店当初から漠然と地元産野菜を使いたいと思っていた北澤社長。しかし当時は市内でも地産地消の機運は今ほど高まっておらず、八王子の生産者との繋がりも全く無いなかで仕入れ先のあてはなく、初めは八百屋を通して八王子産野菜を仕入れていた。

そんなある日、来店客の一人に焼き空豆を提供したところ、「美味しくない。この作り方ではだめだ。」とのお叱りを受けた。

北澤社長はすぐに料理長を引き連れ客席へと向かった。

「あの時は本当にお客様が少なくて必死でした。わらにもすがるような思いでしたね。」

と振り返る北澤社長だが、ただお詫びするだけではなく、持ち前の接客力も発揮しながら「どのように焼けば空豆が美味しくなるのか」等について、会話を交わし教えを乞ううちに、実はその来店客が八王子の農家であることが判明した。

クレーム対応から一転、「八王子の農家さんの野菜を何とか使わせて頂きたいので、ぜひとも明日畑を見に行かせて下さい!」と懇願し、なんとその翌日には畑へ行って仕入れの契約を取り付けた。さらにその翌日には調理された野菜がお店に並ぶというスピード展開に至った。北澤社長のスピード感と実行力なくして、八王子産野菜のメニューは生まれなかったと言える。このご縁をきっかけに、「トマトだったら〇〇さんの所が良い。良かったら紹介してあげるよ。」という農家さん同士の横の繋がりという副産物もあって、以来15件もの地元生産者と取引するに至っている。

新型コロナウィルス感染症との闘い

 「農夫と海女の逢瀬」という店舗コンセプトのもとで、八王子産野菜と北海道の十勝食材をふんだんに取り入れた個性溢れる居酒屋として、けいの家はコアなファンを着実に獲得していった。2年後には2号店「けいの家みなみ野店」、2017年には3号店「龍神丸市場」を開店。(2020年、蔵人舞姫に統合移転。)さらに2019年には4号店となる「農耕民族×狩漁民族」を日野市に開店した。

そして2020年現在。創業以来最大の窮地に陥っている。世界的に猛威をふるっている新型コロナウィルス感染症拡大による影響。これまでの経営戦略と独自の戦術が根底から崩される事態が生じている。

1号店出店の決め手は、駅から少し離れていても家賃が安く、大人数での宴会が出来るお座敷場所が確保できる物件であること。そして駅前の価格競争にはあえて参入せずに、その分のコストを食材原価とサービスに充てられたことが大きかったという。

当初より、けいの家は宴会需要に対してことのほか注力していた。実際に、コロナ禍になる前までは毎日30~40名ほど宴会の予約が入って店内は日々大いに賑わっていたが、それが一切なくなった。

 

「宴会需要を主力とした戦略が、裏目に出る時が来るとは全く想定していなかった。まさかこんなことになるとは。」

 

日本でも感染者は出たものの、まだそこまで緊迫感はなかった2月初旬より、時勢に即応した感染防止 対策と来店動機となる施策を次々と実施した。

市内病院と連携し、医師監修の「免疫力を高める料理フェア」、店内混雑によるリスクを避けるための「フレックスランチタイム」や「時差飲み」。そして緊急事態宣言中には、自社独自の新型コロナウィルス感染症防止対策である「開拓使モデル」をいち早く作成。今では入店前の検温や手指のアルコール消毒は見慣れた光景となってきたが、それらを一歩先取りして取り入れた。従来より徹底していた店内清掃と衛生管理を、さらに細かくマニュアル化して実行している。

「この大変な状況の中、せっかく来て下さった方には安心して楽しんでいただきたい。」

という “おもてなしの心”からである。

 

常にお店の“内”に気を配りつつ、並行してお店の“外”へも目を向けていることを北澤社長は「中庸な外食」という独自のキーワードで表現している。

コロナ禍の状況を受けて多くの飲食店が導入したテイクアウト事業はもちろんのこと、「出張宴会」をスタートした。企業の宴会需要をターゲットとしていた同社。「お店に行くこと自体が難しいのであれば、お店まるごと出張します!」という戦略である。まさに「お店に行く」から「お店を呼ぶ」といったスタイルで、重たいビールサーバーと食材とともにスタッフを引き連れて会場へ向かう。その場で調理し、大きな鮮魚も目の前でさばくので、“出前”ともまた違う。その名の通り、“お店まるごと出張サービス“なのである。

大人数での飲み会開催を控えるよう呼びかける企業が多い中、移動や三密によるリスクを軽減しながら社内で社員同士のコミュニケーションが図れるとあり、現在では徐々にオーダーを伸ばしている事業となっている。

 

 

出張宴会のほか、今まさに取り組んでいる分野がある。EC販売事業である。北海道の代表的な郷土料理である鮭のちゃんちゃん焼き。それに北海道産のチーズをトッピングした「チーズちゃんちゃん®」は、同社の登録商標品である。コロナ以前の2年前、たまたま直感的にこのメニューに可能性を感じ、商標登録を済ませておいたそうだ。新しい販売チャネルを模索していたところ、今こそこれが使えるのではと思いついたとのこと。PR用の写真撮影や動画撮影も着々と済み、オンライン販売がスタートした。

「EC販売は世の中に溢れかえっており差別化は厳しい状況ではあるが…」と語りつつも、打てる手は打っておく。「いずれにしても種を蒔かずに出る芽はないので」と、可能性がある限りは挑み続けるという北澤社長の覚悟と気迫が感じられた。

【オンライン販売はこちらから】kaitakushi.thebase.in

チーズちゃんちゃん®

地域貢献への想い

北澤社長が大切にしている哲学の中の一つに、“地域貢献”がある。

例えば学校が休校となってしまった期間、当然ながら学校給食の提供もストップとなった。日本各地で、行き場を失った学校給食用の食材が溢れているという報道もされていた。そのような中、日野市にある養鶏場と取引のあるNPO法人より、「鶏は毎日卵を産むのだが販路にとても困っている。最悪は廃棄せざるを得ない」という話を聞きつけた同社。

「休校によって行き場を失った農産物と生産者のために、自分たち飲食店もなにか役に立てないか。」との使命感により、大量に購入することを即決した。その数、実に週600個。その時期はテイクアウトが主力であった為、お弁当のおかずに取り入れ、地元産のこだわり新鮮卵であることを顧客に丁寧に伝えるなど、様々工夫を凝らしながら販売を続けた。

その結果、その養鶏場と農業NPO法人から感謝状をもらうという思いがけないサプライズもあったという。緊急事態宣言中の飲食店と言えば、まさに自社の明日の事を考えるだけでも精一杯であっただろうと思われる。そのような状況下でも自社のことだけでなく地域貢献の精神で行動ができる企業には、必ずや明るい将来が待っていると思わずにはいられない。

編集後記

 取材でお店に訪れたのはランチタイムが終了した午後2時過ぎ。休憩している従業員の姿が目に入った為、普段は北澤社長もお休みしているのだろうと思い尋ねたところ、「普段、この時間帯はスポーツジムに行ってますね。」との意外な回答が。

同社は昨年から、医療法人社団 健心会 みなみ野循環器病院 、八王子みなみ野心臓リハビリテーションクリニックとともに「食と運動を通じて健康になる」をテーマに八王子みなみ野健康プロジェクト「Food&Fitness」を展開している。お店でも医師監修のメニューを提供し、「ぜひ食べて健康になって貰いたい。」と話す北澤社長自身が、人一倍健康に気を付けている事が伺い知れた。プライベートでは2歳になる男の子のパパという一面も持つ北澤社長。休日は息子さんとの時間を大切にしているそうだ。飲食店にとって未曾有の危機に直面していることは間違いないが、守るべき家族や従業員のため、揺るがない覚悟と自身の哲学に則って勝負を挑んでいる北澤社長を心から応援していきたい。

 (取材日2020年9月16日)