CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第33回 マイクロニクス(株)

5年後、年商20億を目指して!!

取材先 マイクロニクス(株)(代表取締役 田仲克彰)

所在地 八王子市小比企町2987-2

電話 042-637-3667

e-mail info@micronix-jp.com

URL www.micronix-jp.com

代表取締役 田仲 克彰さん

八王子みなみ野は西側に富士山の眺望が美しい小高い丘陵地である。そこに隣接する小比企町に、「マイクロニクス株式会社」はある。アナライザー等の電子計測器の製造や、ETC等の情報通信機器の開発・製造を主に数々の自社ブランドを開発。国内はもちろん、韓国・台湾等のアジアを始め、ドイツ・アメリカなどの欧米諸国に至るまで、グローバルな事業展開をしている。今回は同社の代表取締役社長の田仲克彰(たなか かつあき)さんを訪ね、お話を伺った。

 

 

事業開始は昭和60年

マイクロニクスは昭和60年に事業を開始した(会社の設立は昭和61年)。企業名はマイクロウェーブ(極超短波)とエレクトロニクス(電子工学)を掛け合わせたもので、「名は体を表す」社名なのである。独立以前の田仲さんは、大手通信企業に勤め測定器の開発を担当していたが、その当時から「将来は独立したい」という意識はあったという。そして転機は38歳の時に訪れた。「長年開発に携わっていたスペクトラムアナライザの開発予算がつかなくなる」という事態を迎えたのである。「それならば」と、同じような志を持つ同僚の技術仲間2名と一緒に会社を興す。これがマイクロニクスの誕生だった。
 

小高い丘陵地にあるマイクロニクス。ここがグローバルな事業展開の発祥地である。

 
創業はしたもののしばらくは開店休業に近かったという。やがて舞い込んだ初仕事はスキャナーの筒の製作。大手電機メーカーに勤めていた先輩からの依頼だった。しかし、田仲さんたちはこの仕事でなんとか初利益の確保を実現する。筒の加工を外注した知り合いが「ご祝儀替わり」と加工賃を無料にしてくれたのだ。「電子計測関連で独立したのに違う分野でのスタートになってしまったけれど、周りの人に恵まれていた」と田仲さんは当時を振り返る。
 
 
 
 
 

 

技術で自社製品開発へ

グッドデザイン賞(上)、東京都ベンチャー技術大賞奨励賞(下)

こうして経営が軌道に乗る中、画期的な出来事が起きる。マイクロニクスが開発したデジタルオシロスコープが、昭和63年12月にグッドデザイン産業機材部門大賞を受賞したのである。しかも、あらゆる産業分野からエントリーされた候補900件以上の中で、計測器関係で選ばれたのはマイクロニクス1社だけ。しかし、装置は受託開発だったため、表彰されたのは発注元の電子計測器メーカー。マイクロニクスの名前が表に出ることはなかった。「長い間研究・開発に携わっていたので技術にはある程度の自信があった」田仲さんには、これ以前にも苦い経験があった。独立直前まで開発していたデジタルオシロスコープが、独立後に発売され、初年度売上げ10億円のヒットとなり、社長賞を受賞していたのである。いずれも「資金力があれば、自社製品として出すこともできた」。田仲さんは、この「受賞」以降ますます「オリジナルの自社製品をつくる」という思いを強めていったという。
こうして心血を注いだ自社開発製品の代表格に、ハンディー型スペクトラムアナライザとETC関連テスタがある。いずれも他に規格のない文字通りオリジナル製品であり、前者は昨年にグッドデザイン賞(左写真上)、後者は平成12年に東京都ベンチャー技術大賞奨励賞(左写真下)をそれぞれ受賞している。
 

 

 

ETCテスターの国内シェアは95%

ETCは、車載機と路側機が非常に高い周波数で通信する。そのため、これに対応する試験機が必要になる。電子計測器で培った高周波技術を活かして田仲さんの開発したテスタは、この分野での先駆けとなり、現在この分野で95%のシェアを握っている。現在のETC技術は日本独自方式で国内普及率は3%。また、韓国でも日本方式の導入が検討されており、これからも市場はまだまだ伸びる可能性を秘めている。
 
このテスタの開発でもマイクロニクスならではのエピソードがある。製品化当時の電波法では、このテスタの取扱者1人ひとりに『陸上特殊無線技士』の資格が求められた。ところが、田仲さんたちがユーザーとして想定していたのは、職業的にはその資格をあまり必要としない自動車ディーラー。「このままでは販路が広がらない」と、田仲さんは郵政省(現:総務省)に積極的に規制の緩和をアプローチしたというが、回答は「難しい」。半ば諦めていた時、欧州で郵政国際会議が開催され、その議決を受けて国内電波法の改正が決まり、さらに、仕様基準としてマイクロニクスのテスタの仕様が採用されたのである。行く手を阻まれかけた規制という暗雲が取り払われてみると、マイクロニクスのオリジナル技術は新しい基準となっていたのである
 

東京都のベンチャー技術大賞奨励賞を受賞したETCテスタ。車両に取り付けたETC車載器が通信を正常に行うかどうかを試験する装置(ME8800D)である。

 

 
 

 

CD作戦(現有商品コストダウン作戦)

マイクロニクスの測定器。電子計測器をはじめとする自社製品のラインアップは豊富だ。

もう1つ、マイクロニクスでは平成10年からユニークな事業を始めている。CD作戦(現有商品コストダウン作戦)である。たいていのメーカー企業は、生産額が少ない、設計工数が少ない、設計が古い、利益が上がらないなど問題商品を抱えている。その解決策を提案するのがこの事業である。相手企業から相談があると、マイクロニクスは、その多種に渡る計測機器技術を駆使してコストダウンの試作サンプルを作る。それが依頼企業の評価を得れば、本製品をマイクロニクスが供給する。これが事業の基本コンセプト。言ってみれば、同社のコストダウンノウハウを商品化したのであるが、「既に幾つかの企業で導入実績がある」とのこと。依頼企業はコスト削減につながり、マイクロニクスはOEM供給と特注製品を通じて新しい開発テーマのヒントになるというWin-Win関係を作るのがCD作戦なのである。
 

 

 

『ものをつくる意識』から『売る意識』に

 「今までは良い製品づくりに重きをおいていたため、営業にはあまり力を入れていなかった。しかし、最近になって少しずつ、その考えが変わりつつある」と田仲さんは言う。少ない人数で何億円もの年商をあげる企業を見て、「ユニークな製品をいくら作っても売れなくては意味がない」と、『ものをつくる意識』から『売る意識』に変わったというのである。そこで、まずHP(ホームページ)の販売ツールとしての考え方を変えた。以前はカタログ請求がくるよう敢えてさらりとした情報しか掲載していなかったのだが、これでは資料請求のやり取りに時間がかかってしまい、時間というコストを費やすことになる。そこで、「今はHPにカタログ以上に豊富で詳しい情報を掲載するようにしています」と言う。もっとも重視しているのは「見る側にわかりやすく見てもらうこと」。そこで、社内の営業会議でとことん議論し、また、更新は1週間以内で行い常に新しい情報提供を進めている。
 

マイクロニクスの開発現場の様子。若い社員がいきいきと仕事をこなしている。

さらに、22社ある販売代理店の意識高揚にも着手した。社員の中から職種を問わず9人を選出し、担当を決めて資料請求のアフターフォローやデモ等を一緒に行うようにしたのである。これにより代理店も売るという意識が高まり成果が着実に上がってきたという。

 
 「今頃になって売る意識になるのは良い経営者とは言えないね」と謙遜しつつ、「今まで種を蒔いていたものが、これから花が咲き実をつける時。5年後に年商20億を目指す」と田仲さんは冷静に今後の目標を語ってくれた。

 
編集後記
 
「今までは良い製品づくりに重きをおいていたため、営業にはあまり力を入れていなかった。しかし、最近になって少しずつ、その考えが変わりつつある」と田仲さんは言う。少ない人数で何億円もの田仲さんの既存市場ではなく、他社に規格がない市場を狙って事業を展開し、そのシェアを獲得してしまうマイクロニクスの技術力の高さに驚嘆した。八王子にこんなすごい会社があることを嬉しく思う。
 
また、社長はもちろん現役の開発者で「教えることが好きだ」と言う。開発している現場を覗かせて頂いたが、若い社員が活き活きと仕事をしていたように見えた。聞けば、技術者の平均年齢は27~28歳だそうである。田仲さんの優れた技術の継承と若い新感覚の発想が融合し、今後においても、数々のすばらしい自社製品が世に生み出されていくのではなかろうか。
 
 社長の忙しい合間をぬっての今回の取材であったが、素人の私たちに対し、測定器の特徴を紙に図式化していただいたことを始め、丁寧な説明をいただき感謝申し上げる。
 
(取材日2003年2月7日)