CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第37回 (株)コスメイト

映像技術スタッフに最高の武器を提供!

取材先 (株)コスメイト(代表取締役社長 水野 香苗)

所在地 八王子市西片倉3-20-13

電話 042-638-0091(代表)

e-mail info@cosmate.co.jp

URL www.cosmate.co.jp

 代表取締役社長 水野 香苗さん

コスメイトは、ロボティクス、メカトロニクス、モーションベースといった技術を軸に、主として放送業界向けの特殊撮影装置を設計・開発をしている会社である。最近では、長野オリンピックノルディック複合の中継や世界水泳、パンパシフィック水泳の中継、NHK紅白歌合戦の中継などにコスメイトブランドのレールカメラが使用されている。

業界で高い評価を得ている特殊撮影装置の「株式会社 コスメイト」代表取締役社長、水野香苗(みずの かなえ)さんを訪問しお話を伺った。

 

 

特殊撮影装置は自社ブランドで

コスメイトが創業したのは、昭和63年、水野社長が30歳の時である。大学を卒業後、大手研究所に勤務する技術者としてロボットの制御技術を研究していた水野社長だが、在職中から「いつかは独立する」と考えていたため、早々と退職。同じような志をもつ他の技術者3人とスタートを切ったcccもっとも、最初は特殊撮影装置(ロボットカメラとも言う)だけでは食べていけないので、ソフトウェアの受託開発や結婚式場向け撮影機材など、「それぞれの持っている技術を効率よく活かして製品をつくろう」と、2人ずつで2つのプロジェクトを組むシフトを採用。やがて活路を見いだしたのはテレビ局向けハイエンド製品の分野だった。同時に、「自分たちのブランドをつくらないと、次の仕事につながらない」と感じた水野社長は『自社ブランドで提供する』という「経営方針」にたどり着いたのである。

コスメイトの高速レールカメラ。長野オリンピックでは、スキーのクロスカントリー競技(写真右上)に、世界水泳大会では(スーパーアシストレール・写真左下)の撮影に使われた。時速40Kmの撮影が可能である。

  今では「テレビ業界向けの特殊撮影装置の製作」がコスメイトのコアコンピテンスで、同社事業の6割を占める。
 
 
 

 

主として放送業界向けの特殊撮影装置の設計・開発

カメラデータ収集器CDC-500。バーチャルスタジオなどCGと実写映像のリアルタイム合成に威力を発揮する。

コスメイトの開発・設計には「ロボット制御技術を外へ広げる」という基本コンセプトも据えられている。例えば、長野オリンピックで採用されたレールカメラはリモートコントロールで最高40km/hでカメラを走らせることができる。それだけ高速になるとカメラや映像のブレは避けられないものだが、水野さんによると「コスメイトのジャイロ防振技術は固定式カメラと同等もしくはそれ以上の映像表現を可能にした」もの。このジャイロ防振技術はマラソン中継にも使われるなど、様々なスポーツの躍動感や臨場感を視聴者に伝えることを実現しているのだ。また、選挙速報などの特番映像画面では、キャスターがいる画面の周りに得票数のテロップやキャラクターがで登場する。これらのは、カメラが引いたりズームになった時に、大きさや距離感など画面中のキャスターと違和感があってはならない。それには、CGを拡張・収縮させなければならないが、 実は、ここにもコスメイトの実写映像とCGとの合成技術が絡んでいるのである。
「これにはレンズにセンサーを付け、カメラ本体、三脚にもセンサーを付け空間位置を検出している。このように、私たちは撮影に求められるあらゆる技術を提供することが可能である」と水野さんは教えてくれた。
 

 

 

大手相手の市場規模で勝負

コスメイトの製品は、放送業界用撮影機器のハイエンド機と位置づけられている。「取引先もNHK・日テレ・フジ・TBS・テレ朝といった大手放送局が相手」という市場で勝負している。その中でも、同社の特殊撮影装置は人気のある番組、言い換えると予算がとれる番組に使われるという。確固たる技術評価を得ていることは今さら言うまでもないだろう。その点は、水野社長も「テレビ業界は、照明、音響など役割が細分化された狭い世界です。その中で、特殊撮影装置の分野では日本でTOPと自負しています」と、自信を覗かせる。当然、生産は量産にはなじまない。テレビ局から「この番組でこういう映像が欲しい」と依頼を受けると、設計からアッセンブリまで1台1台、完全受注生産である。
 

コスメイトのレールカメラ。天井に目立たないようレールを埋め込み、撮影する。結婚式場などに使われている。

 
 「ここまで来るには、地道に特撮映画やコンサート撮影、スポーツ中継などの現場に加わり小物部品を作り、技術を売り込んでいった。それが、今の業績につながっている」と水野社長は分析する。また、営業も専任スタッフは置かずに技術スタッフに兼任させている。ロット生産ならば、製品を覚えれば営業はある程度誰でも対応が可能である。しかし、受注生産のコスメイトの場合、現場での打ち合せ段階から技術的な要求も多い。「それをいちいち持ち帰えっていたら営業にならない」と、即対応の可能な技術者を営業に導入しているのである。
 

 
 

 

自社製品で勝ち抜く秘訣

コスメイトの社内の様子。ほとんどが技術者なのである。

コスメイトの経営理念は明確である。「大手放送機器メーカーと正面きって戦うつもりはない。大手が手を出さないニッチな市場で確固たる地位を確立し、“特殊撮影装置だったらここ”と、大手から共同開発の声がかかることを狙っている」のである。コスメイトでは一時ソフト開発行っていた時もあるが、その際、「いくら新しいソフトを開発しても世の中の価格競争に巻き込まれてしまった」。「ニッチな市場で確固たる地位の確立」という理念は、このような現実の教訓から生まれたのである。「中小企業にとって、事業を展開しながらニッチ市場を見極める」これが自社製品で勝ち抜く秘訣なのである。
 
ある放送局からは、南極での無人撮影用に、氷点下50度、風速80m/sの環境に耐えうるリモコン雲台(カメラを遠隔する装置)の開発を頼まれたという。開発する直前に放送局側で企画が止まったために、「幻の開発」に終わったが、コスメイトの特化した技術力の高さが認められているからこそ、舞い込んだエピソードだろう。
 

 

 

最高の映像のために最高の武器をつくり、夢は海外進出!

 ところで、テレビ業界は、厳しい経済状況の下でも、スポンサー企業の減少はあるものの景気に左右されない業界なのだそうだ。「20時で番組が終了することなんて無いでしょう?」。映像は常に流れ続けているのである。良い番組を制作するには面白いソフトと、カメラマン、映像との調和が欠かせない。「映像を撮影するカメラマンは空間の絵を切り取る芸術家である」と社長は言う。コスメイトはその後衛にあって最高の映像を表現するための一翼を担う。だから、「技術スタッフに最高の武器」を提供しようと、カメラマンの手の大きさに合わせグリップやスイッチを取り付けるという一品一様のオリジナルを作っているのである。
 

国道16号バイパス沿いにあるコスメイト。八王子インターに5分。都内へのアクセスには最適である。

 
このようなコスメイトの技術には当然、海外からも引き合いがくる。だが、今の経営体制では、海外取引・販売については商社を仲介せざるを得ない。しかし、それではアフターケア1つを取っても、コスメイトの製品を海外で120%活かしきれないのではないか・・・。どうせ海外に出るなら、コスメイトの製品を120%、向こうのお客さんにも気に入って欲しい・・・。
 
水野さんの次の目標は「会社を大きく成長させ、海外にも自社進出することが将来の夢」なのである。
 

 
編集後記
 
コスメイトはカメラの他に、ロボティクス技術を活かし、静岡県からの依頼で地震体験装置を作ったそうである。普通の体験装置は3次元で地震表現をしているというが、地すべりなども勘案して6軸で動かすものを作ったという。「テレビ業界以外には名はほとんど知られていない小さなメーカーだけれども常にベストを尽くす」と前置きをしつつ「開発には失敗はつきもの。失敗がなければ赤坂にビルが建っているよ」と笑いながら話してくれた水野社長。このポジティブ精神がある限り、優れた技術が生まれてくるのではなかろうか。
 
(取材日2003年2月24日)