CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第44回 システムインスツルメンツ(株)

目指すは、技術のコンダクター!

取材先 システムインスツルメンツ(株)(代表取締役社長 濱田和幸)

所在地 八王子市小宮町776-2

電話 042-646-3555

e-mail sugasawa@sic-tky.com

URL www.sic-tky.com/

代表取締役社長 菅澤 清孝さん(写真中央)

今、中小企業を取り巻く環境は非常に厳しい。そんな苦境を乗り越えるために、経営者たちは日々技術革新、経営革新に取り組んでいる。そうした中小企業経営者に、一つの”道”を提案する企業がある。八王子市小宮町にあるシステムインスツルメンツ株式会社がその会社だ。代表取締役社長である菅澤清孝(すがさわ・きよたか)さんは、現在を“第二創業”と捉え、中小企業経営の新たな方法論を提示している。今回は、“第二創業”に取り組む菅澤社長に、今後のビジョンを語っていただいた。

 

 

中小企業としての新たなカタチを求めてPart1 ~この道一筋からの脱却~

システムインスツルメンツは、創業後30年を経過した今、“第二創業”として新たな“会社”へと生まれ変わった。「これからの中小企業にとって大切なことは、“この道一筋”からの脱却」と、菅澤さんはその目的を語る。システムインスツルメンツは、分析機器など最先端の技術分野で活躍してきた会社である。しかし、先端であればあるほど、技術面の競争は激しく、研究開発にかかる投資は莫大なものとなる。大企業は人材、資金ともに潤沢であるため、技術を広く深く追求することが可能であるが、一方中小企業にとっては経営資源が限られている中で、フォーカスを絞って深く追求するしかないのである。だからこそ、中小企業の多くは一芸に秀でた、“この道一筋”を追求するしかなかったのだ。
 

第ニ創業として生まれ変わった、システムインスツルメンツ(株)

 
システムインスツルメンツも例外なく、分析機器を中心とした会社として“この道一筋”を追求してきた。ところが、「このまま一筋の道を延長していっても、先細りになるだけ」危機感を募らせた菅澤さんは、この技術革新の時代を生き残っていくためには、“技術の幅”を広げようと、その“道”を模索し始めた。もちろん、闇雲に幅を広げても意味が無い。高度な技術を維持したまま幅を広げることが重要なのだ。一見、無理難題とも思える「技術の幅を広く、そして深く」という課題に、一つの“道”を見出してゆく。
 
 
 
 

 

中小企業としての新たなカタチを求めてPart2 ~技術のクラスター化~

試験・測定装置から、バイオ関連機器まで幅広く製品を提供できる。これこそが、技術のクラスター化の賜物である。

技術革新の時代、会社自らが変化をしていかなければ生き残れない。しかしながら、自社の保有資源だけで、変化することができるのだろうか?それは、よほどのチャンスが無ければ難しいことである。そこで、菅澤社長が見出した手法が、“技術のクラスター化”である。クラスターは「葡萄の房」の意味で、要するに他の企業が保有していた技術や人をシステムインスツルメンツが「技術の継承」を行うことで、自社の“変化”への礎を築こうというものである。   かつて、中小企業は技術とユーザーを確保していれば、経営は安泰であった。しかし、バブル崩壊後、経済の構造が変わり、ただ技術を持っているだけでは厳しい時代となってしまった。また、中小企業が直面している問題として、後継者不足がある。後継者がいないために、高度な技術をもっていても経営を断念せざるを得ないケースも多々ある。そうした中で、独自の嗅覚で菅澤さんは、「技術の継承」を進めてきた。「人を含めた技術の継承は、簡単なものではない。タイミングと信用が第一なんです」と菅澤さん。こればかりは、“成功の秘訣”というものは存在しないのかもしれない。
 
 ただ、忘れてはいけないことがある。システムインスツルメンツは、決して継承できる技術ならば何でも良いと考えているわけではない。今後のビジョンをしっかりと掲げ、それに必要な技術と人を継承するという、極めて戦略的な「技術の継承」、クラスター化計画なのである。この考え方の下、従来の分析機器に加え、物質の抽出技術、前処理技術、生化学(バイオ)技術を取り込んだ、新生システムインスツルメンツの第二創業が始まった。
 

 

 

技術のコンダクターを目指す!

 システムインスツルメンツの歴史は昭和47年の創業に始まる。この特徴的な社名は、会社のミッション(使命)そのものである。「楽器(インスツルメンツ)が美しいハーモニーを奏でるオーケストラのように、一つ一つの技術を組み合わせ、システム化するコンダクター(指揮者)でありたい」という想いの表れなのだ。その延長上に、前述の“技術のクラスター化”がある。このような発想を具現化するためには、クラスターの“幹”となるコア技術がしっかりと確立していなければならない。
 

システムインスツルメンツは、某大手分析機器メーカーをスピンアウトした菅澤社長が設立した。元々分析機器を開発していたこともあり、その技術を活かした事業展開を考えていたが、名も無い中小企業に開発の仕事がもらえるほど甘くは無い。

創業当初は、写真のようなデータ処理装置をメインとしていた。当時、このようなマイコン内臓の処理装置は、先進的だった。

 菅澤さんは、「日本の企業では、無名の会社にはなかなか門戸を広げてもらえない」と判断し、外資系メーカーをターゲットに実績を積み重ねた。そうした大手企業の仕事を受けているうちに、“活路”が見えてきたのである。「装置そのもので勝負しても大手企業には到底適わない。ならば、装置から出力されたデータ解析をビジネスにしよう」。そう思い立った菅澤さんは、物質を分離分析するクロマトグラフィーのデータ処理装置を開発。これに端を発し、各種分析装置や光導波路分光装置などの分野で、着実に“幹”(コア技術)を太くしていったのである。
 

 
 

 

技術の蓄積が可能にした「イージーオーダー」による装置開発

開発途中の装置。顧客ニーズに合わせてイージーオーダーにより製造されてゆく。今まで培ってきた技術や製品といった蓄積があればこそである。

自社のコア技術を中心とした、クラスター化によってもたらされた経営資源。それらを効果的に活用するために、システムインスツルメンツは「イージーオーダーによるシステム装置開発」という特徴的な方法論を提唱している。  先端分野であればあるほど、装置のLife Timeは短い。既存の装置では、既存の素材、物質しか分析できない。新たな素材が出れば、新たな装置開発が必要となる。さらに、先端分野であればある程開発競争は熾烈で、その分スピードも求められるのである。従来、そうした顧客ニーズに対して、オーダーで装置開発を行っていた。これをより効率的かつスピーディに行えるようにと考え出された方法が「イージーオーダー」なのである。
 
 つまり、今まで培ってきた製品開発のノウハウや技術を全てデータベース化し、それらの応用と組み合わせにより、柔軟に顧客ニーズに対応しようというわけである。社内にはサーバー室があり、そこにシステムインスツルメンツの技術ノウハウが結集されている。「イージーオーダーを実現するためには、まず技術ノウハウを持っていること、そしてそれらを応用した製品群を持っていることが大前提です」と菅澤社長。30年間脈々と技術を磨いてきたからこそ可能なシステムなのである。
 

 

 

「人のための科学」を探求

これまで、“技術力のシステムインスツルメンツ”というイメージは十分伝わったことだろう。しかし、システムインスツルメンツは、単に技術力を探求しているというのではなく、その先に“人のために活きる技術”を見据えているのだ。これは、会社のキャッチフレーズである「人のために、明日のために」にも表れている。
 

システムインスツルメンツが開発している機器は、その多くが研究分野で活用されるもの。それを実証するがごとく、製品の納入先は大学や企業の研究機関がほとんどである。そうした装置自体は、私たちコンシューマにとって、身近な存在ではない。しかし、その応用分野は医療、製薬、食品等私たちの生活と密接な関係のある分野ばかりだ。例えば、残留農薬の抽出装置やタンパク質合成装置など、「技術のための技術ではなく、真に人の役に立つ技術を探求している」の言葉どおり、私たちの生活を安全かつ豊かなものとするためにシステムインスツルメンツの技術が活かされている。

 

システムインスツルメンツのラボ。製品群は、こうした地道な研究の上に成り立っている。

創業以来、常に技術革新を進め、発展してきたシステムインスツルメンツ。この第二創業を期に更なる変化と発展を遂げることを期待したい。

 
編集後記
 
取材をして第一印象は、非常にしっかりとしたビジョンを持った社長であるということ。しかし、菅澤社長は決して表に出ようとせず、「私はたまたま社長になっているだけ。むしろ、会社そのものか、頑張っている社員に注目して欲しい」と、社長個人の写真を撮らせていただけなかったほどだ。かつての社長室を社員のミーティングルームとして提供し、「私は専らスポークスマンですから」と自らは社屋の隣にあるプレハブを社長室としている。そういう姿に、次世代を担ってゆくであろう社員に対する想いが伝わってくる。
 

システムインスツルメンツは、ここ数年を第二創業として位置付け、3つの会社から技術の継承を行った。最近、中小企業の後継者難の打開策として、M&Aが注目されているが、システムインスツルメンツは菅澤社長自身が、高度な技術を持ちながら事業をやめざるを得ない会社を、絶妙なタイミングでキャッチしているところが特徴である。また、ただやみくもに技術を求めるのでなく、システムインスツルメンツのコア技術を基に、「今後自社にとってどのような技術が必要なのか」をしっかりと見極め、それに必要な技術、人を確保しているという点で、極めて優れた経営戦略を持っている。

 

システムインスツルメンツの社訓は、孫子の兵法から引用して「智・信・仁・勇・厳」だ。これは孫子が敵味方の将の能力をこのポイントで比較すべきだと訓えたものである。システムインスツルメンツでは、それぞれ「クリエイティブ・創・聡」、「信用・信頼・信念」、「道徳・慈愛・心」、「アグレッシブ・チャレンジ・気」、「戒・自制・省」を当てはめている。「東洋的な思想を持って経営にあたりたい」との考えからだが、社訓を孫子の兵法から引用するあたりが、戦略に長けた菅澤さんらしいと感じた。

 
(取材日2003年7月2日)