CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第70回 山下電装(株)

果てしない”光”技術の追求!

取材先 山下電装(株)(代表取締役 山下 昌彦)

所在地 八王子市美山町2161-14

電話 042-650-7121

e-mail info@yamashitadenso.co.jp

URL www.yamashitadenso.co.jp/

代表取締役 山下 昌彦さん

 “太陽の光”は自然の英知。ヒトはその“太陽の光”を人工的に作ることができるだろうか・・・?

  実は山下電装という社員わずか18名の会社が、それを実現している。美山工業団地にある同社は、その「電装」という社名からは想像できない“光源”の開発に永年の実績があり、培われたノウハウを基に、太陽光に限りなく近いスペクトル分布を再現するソーラシミュレータを開発しているスゴイ会社だ。

 今回はこの会社に訪問し、代表取締役社長の山下 昌彦(やました まさひこ)さんからお話を伺った。

 

 

創業経緯 ~「電装業務」から「光技術開発」へ!~

 山下電装の創業は1972年。現社長 昌彦さんの父親である正昭氏(現会長)が、蛍光顕微鏡等の分析機器に使われる点灯電源を製造するために立ち上げたのだ。創業時は、材料の仕入値よりも売値の方が安いような厳しい時期が続き、正昭氏は寝るヒマもないくらい忙しかった。昌彦さんは「子煩悩な父親が、夜遅くまで帰宅してこなかった」ことを良く覚えているそうだ。
 

そして創業から1年半ほど経った時期、山下電装はあるランプメーカーから打診を受け、紫外線照射の光源機器の開発に着手する。もともと正昭氏は気象観測装置メーカーや商社等に勤めていたことがあり、その時から「将来、産業界では紫外線へのニーズが高まる」ことに着目しており、ゆくゆくはその分野に入っていきたかったそうだ。

  そして、この時期から山下電装の“光”技術への探求が始まるのだ。
 

一方現社長の昌彦さんは、もともと社会に出てからシステム開発会社の情報管理部門で2年間働き、1992年、24歳の時に山下電装に移ったそうだ。「全く畑違いの仕事だったので、掃除・お茶酌みから修行を始めました」と昌彦さん。このスタンスと社員の人間関係が良好であることからすぐに溶け込むことができ、会社の一員になることができたそうだ。「自分は技術面のノウハウは付け焼刃。だから社員に助けられながら経営しています」と昌彦さんは謙虚に話してくれた。

 

現会長の山下正昭氏。 同氏の先見性が同社を光分野に導く。

山下電装が開発・製造する紫外線照射装置。紫外線強度が強く多分岐ファイバーの使用時に最適。

 
 
 
 
 

 

他社に先んじた先見性! 山下電装の力の証明

大ヒットの“魔鏡の原理”を組み込んだ表面欠陥検査装置

 

 現在の山下電装は、光源機器と、光を活用した半導体検査機器の開発がメイン。それも単なる下請けではなく、独自製品・ブランドで展開する力を持っている。社員18名という規模ながらここまでの力をもつ理由の一つは、他社に先んじて「光源機器」の開発に着手していた先見性にある。

例えば、UV硬化樹脂(紫外線を照射することによって硬化する接着剤)を硬化・乾燥させるための紫外線照射装置については80年代前半から扱っており、当時は他社では真似ができずトップシェアを誇っていた。この技術は、現在も自動車に搭載するカーステレオの光ピックアップ部分の接着等にも応用されているのだ。

また、半導体製造装置業界への参入計画も80年代前半には既に取り組み始めており、半導体のウエハーに平行光を当てて表面の平坦度を検査する表面欠陥検査装置の開発に1983年に成功。この装置は「魔鏡の原理」を応用した完全自社開発。その名もズバリ「魔鏡」と名付けられ、半導体製造装置のユニットとしてほとんど全ての装置メーカーで採用されている優れモノだ。さらに、この装置は「MAGIC MIRROR」の商品名で世界各国に輸出されており、1988年には「画期的な検査装置」であると認められセミコンダクター・インターナショナルから表彰されているのだ。

表面欠陥検査装置のデモを行う山下社長

 

名誉あるセミコンダクター・インター ナショナルの表彰

 

 

 

飽くなき“光”技術の探求!

 一方、高い先見性を実際に具現化できている山下電装の技術開発力も無視できない。その理由の一つとして挙げられるのは、創業当初に培った「電装」技術の蓄積が礎になっていることだ。「光源」の開発は電圧の安定供給が欠かせないが、「高安定の電圧を扱うノウハウは、かつての電装技術が役立っている」と昌彦さんは言う。
 

また山下電装の「軸」にブレがないことも理由の一つだ。創業以来10年毎に主要製品が変わっていながら、「“光”を応用した技術を、研究者・企業に提供する」という点に一切のブレがないことを昌彦さんは挙げる。この飽くなき“光”技術への探究心が、山下電装という会社の価値を他社よりも高く押し上げている。

 

現在力を入れている製品は、国際的な基準太陽光ならびに宇宙用に準拠した「太陽光と限りなく近いスペクトル分布」を再現しているソーラシミュレータである。これはやはり80年代前半からお客様のニーズにマッチさせつつ開発を続けていたものであり、その実績とノウハウから、コンペティターと比べても山下電装にはかなり高い技術的優位性がある。それは「世界標準」の認定が証明しており、一昨年には日本国内の太陽電池の生産に携わる多くのメーカーが性能を検定するための基準光源として「モジュール校正用ソーラシミュレータ」が筑波の(独)産業技術総合研究所に採用されたのだ。そしてその噂は口コミで広がり、現在は太陽光発電の研究開発している企業や研究機関でも山下電装のソーラシミュレータが次々採用されている。

 

力を入れているソーラシミュレータ。世界標準に認定されている。

社員の方にソーラシミュレータのデモを 見せて頂いた

 
 
 

 
 

 

クラフトマンシップの社風が未来をつくる!

山下電装の活気のある社内の様子。若手社員が生き生き働いている。

 山下電装の社内は、少人数にもかかわらずすごい活気がある。「ここ数年は新卒採用も積極的にしています」と昌彦さんが言うように、若手も生き生きと働いている。社員はクラフトマンシップに溢れており、「何事も挑戦して、決して諦めないのが自然にできた社風」と言う。これが「少数精鋭」たる山下電装の証だ。

そんな山下電装の今後の展開は、まず、「現在力を入れているソーラシミュレータで確実に実績を上げていく」ことだそうだ。お客様のニーズにさらに適確に対応できる体制を築き、より「高いレベルまで製品価値を上げて行くことが命題」と昌彦さんは言う。

 
 また、新たな事業展開については「全てはお客様で決まる」とのこと。もともと山下電装は、前社長の正昭氏が「お客様に良いサービスを提供する」ということに徹底的に拘っていた。つまり、山下電装は創業以来お客様のニーズに対応していくことで成長してきた企業であり、それが今でも脈々と継承されているのだ。

「“光”の用途は果てしない。むやみに会社を大きくするのではなく、“光”という自社の得意分野に特化して今後もつらぬいていきたい」と昌彦さんは力強く語っていた。

 
編集後記
 
 山下電装は美山工業団地の真ん中にあり、前から気になっていた会社だ。今回ようやく訪問が実現できたが、実は配線や電気系部品製造等々いわゆる「電装」と呼ばれている業務とは全く異なった事業を展開していたのである。しかも、独自ブランドで「光の源」そのもの作ることが出来るスゴイ会社だった。なんだか、また市内の会社で掘り出し物を見つけたようでとっても嬉しかった。
 
 あわせて、社長の昌彦さんの人柄が素晴らしかった。社内を見せていただき、沢山の写真を撮らせていただいたが、「主役は社員ですから、是非写真を撮ってあげてください」と入社したばかりの若手社員を紹介していただいた。取材時に「社員には日ごろより助けてもらっている」と昌彦さんが仰っているように、この方は心底社員を信頼しているのだ。
 

ところで、山下電装は青森の某工業高校と独自のネットワークがあり、毎年率先して優秀な卒業生を紹介してもらっているとのこと。「山下電装」という会社の名前は、みちのくで揺るがない信頼を得ているのだ。

 
(取材日2006年10月6日)