CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第107回 (株)名尾建

『義理と筋を決める。必死に生きる』

 

取材先 株式会社名尾建(代表取締役 名尾 俊太郎 氏)

所在地 東京都八王子市鑓水2065-2

電話 042-673-7090

URL naokenzai.co.jp/

 

 

経営者とくに創業者は、会社や事業に対して強烈なまでの信念が存在している。そしてその信念を従業員や取引先はたまた私のような取材者に対しても、徹底的かつ分かりやすく伝えることを決して惜しまない。このことは、筆者がこれまで多くの経営者から取材をしてきた中で強く感じた事の1つである。

 

そんな中、今回取材させていただいた㈱名尾建創業者で代表取締役の名尾俊太郎(なお しゅんたろう)氏が持つ信念は特に分かりやすく、かつ強固なものと感じた。

 

「絶対に嘘をつかない」「希望を持たせる」

名尾氏の持つ真っ直ぐな信念は、どのように培われ、今どのような形となって顕れているのか。これまでの名尾氏と同社の歩みと合わせてお伝えしたい。

                

糧となった野球人生と仕事の原点

 

「何事も勝負事。常に必死に生きています。高速道路で180キロMAXで走り続ける如くの生き方をずっとしてきています」。

そう語る名尾氏の人一倍の負けん気の強さの原点は、学生時代に打ち込んだ野球にあった。

 

高校では1学年450人いた生徒の中、スポーツテストで2人しか選ばれなかったAクラス入りの生徒だった程、体力と運動神経に優れていた。しかし、野球部では人一倍練習に打ち込むもベンチ入りが叶う事はなかった。

 

「いくら練習しても、野球センスのある選手には敵わなかったです。それが屈辱で、今でも人生のバネになっています」。

 

高校卒業後は夜間大学に通いながら土木作業のアルバイトに従事。当時都心の喫茶店でも時給600円程だったのに対し土木現場は日当10,000円。お金を稼ぎたい気持ちが何より強かったため、仕事の辛さは感じなかったという。

 

「日給10,000円は今の業界水準とそこまで大きく変わらないですよね。それだけに、今の子たちにはどこでも飯が食べられるように技術を身につけさせて、かつ給与面でも夢をみさせられるようにしなければならないと強く思っています」。

 

土木作業のアルバイトを21歳まで続けた名尾氏は、100万円のダンプを購入しダンプ運送業個人事業主として開業。かねてより映画「トラック野郎」のファンであり長距離運転手に憧れていた夢を実現させた。売上は初年度から8000万円、2期目には1億500万円にのぼったという。バブル景気も追い風となり仕事が舞い込む中、ダンプ仲間と協力して20~30台を配車して割振り、稼ぎに稼いだという。

 

その後も事業規模が拡大し、設備も充実してきた1990年。融資条件のメリットから有限会社として法人成りをした。この頃のことを名尾氏は「当時23歳。見栄で仕事していた」と振り返る。

 

嘘をつかない

 

当時は同年代の若手経営者も多く、業界内で何でも競い合っていた。所有している設備もライバルと競い合い、気が付いたら社員4人に対し建設機械7台・ダンプ8台。設備だけでなく借金も増えたという。27歳の頃には借金は2億円以上に膨らみ、機械やダンプを全て売らざるを得なくなった。そこで始めたのが現在の事業にも繋がる外構工事であった。

 

当時は給料の支払いが遅れるときもあった。何とか現状を打破すべく各地に営業へ回った名尾氏であったが、沢山の悔しい想いを味わい、怒りが込み上げてくる日々もあったという。そんな中、当時の苦境を知る3人の従業員は現在も名尾建に在籍し続けている。

 

「古川専務・森部長・川崎部長の3人はどんなことがあってもこの30年間付いてきてくれた。彼らや妻がいたから今があります。本当に感謝です」。

 

なぜ3人は名尾氏に付いてきたのか?それは名尾氏の信念が従業員に伝わっていたからであった。

 

「多分ですが、私が『嘘をつかない』ことを全うしてきたからということもあると思います。誰に・何に対しても誤魔化して生きてきたことは無いです。納得いかないことはどんな相手であろうと真正面からぶつかってきました」。

 

「年間2億円以上の受注がある大手建設会社と弊社従業員が揉めてしまったのですが、弊社には非が無い。社員を大事にする想いから私は『今後はあなたたちと仕事はやらない』と言い切りました。結果として月収は激減しましたが、後悔はしてません。ちなみにですが、翌月には同社の別営業所から注文が入りました。モヤモヤはしましたが、自分が正しい対応をした結果とも思っています」。

 

これら一連の出来事は、信念である「嘘をつかない」ことと「見栄で使ったお金は生きたお金とならない」ことが一層心に刻まれた経験となった。

 

 

生きたお金を循環させる

 

「見栄で使ったお金は死んだお金となり返ってこない」。
それに対し「意地で使うお金は生きたお金となり返ってくる」と名尾氏は話す。

 

今期(第33期)の名尾建は売上13億円に達する見込。かつて資金繰りに苦しんだ状態から抜け出して久しく、現在の経営状態は良好とのことである。儲かる体制を構築した名尾建は現在、生きたお金を循環させる地域貢献活動に注力している。

 

その取組の一例が、2022年にオープンしたカフェ(nao cafe)とスタジオ(nao house)の施工である。名尾建で稼いだお金を、生きたお金として地域に貢献する形に循環させるための空間を立ち上げた。建物のコンセプト・外観・内装ともに名尾氏の拘りがふんだんに詰まっている。

nao cafe

 

「生きたお金の使い方を考えたときに『地域貢献』が浮かびました。ただ、地域貢献って何だろう?と考えたとき、人を集めることだと思いました」。

 

「今はカフェもスタジオも赤字です。このマイナスとマイナスを組み合わせて、どうプラスにするかが経営者の考えです。人が集まる場所をつくるにはお金がかかります。ですが、人が集まれば経営者が知恵を出すことで利益に繋がり、更なる地域貢献ひいては、今の日本を変えることができるのではと考えます。今の取組にはもの凄くワクワクしています」。

 

カフェでは通常営業に加えマルシェを開催したり、スタジオではバレエやストレッチ教室を開催したりと、人の賑わいが増してきているという。

 

nao studioキッチンスペース

金色の取手等、内装外装各所に拘りが

人を集める場所づくりは他にもされている。

2022年8月には「名尾建祭」と称し地域市民に向けたイベントを開催。計400人以上の方が訪問され、およそ800食の食事が出たという。地域への感謝と地域交流が実現できたイベントとなった。

更に、27歳からの趣味である「石鯛釣り」を盛り上げるべく、全国から石鯛釣りのプロやレジェンドを一同に招き「第1回磯釣り石鯛まつりin伊豆」を主催。釣り業界で大きな話題を呼んだ。

「第1回磯釣り石鯛まつりin伊豆」(名尾社長提供)

名尾社長(同氏提供)

お金を稼ぐ・人を集める場をつくる・行動に起こす・地域に循環させる。名尾社長はあらゆる場面で経営者たるものの存在意義を体現している。

 

さてここまでは、名尾氏並びに名尾建の歩みに触れながら取組やその想いについてお伝えした。ここからは、名尾氏が実行している「人材育成」にフォーカスをしていく。

 

 

希望を持たせて人を育てる

 

多面的に先陣を切ったリーダーシップを発揮している名尾氏。その根源には当然、名尾建の発展がある。名尾建が今後も発展するためには「人を育てること」「格好いい会社にすること」が最も大切であると話す。

 

「経営者の役割は“人を育てることができる人材を育成する”ことです。言い換えれば“従業員の中からリーダーとしての資質を探して育てる”ことです」。

 

人は認められることや尊重されることでモチベーションが上がるものである。部下の長所を見つけて伸ばせるリーダーを経営者が探し出し育てる。それを繰り返すことで社内全体にその風土が浸透し、やがてはリーダーの下に付いていた従業員もリーダーの資質が育まれ、組織として一層強固になる。結果として名尾建の発展に繋がることであろう。現在の名尾建はその発展途上にあるという。

 

また、従業員にリーダーとしての資質を存分に発揮してもらうためには、会社に対して希望を持たせることも経営者の大きな役割となる。

 

では、希望を持たせるために経営者はどんなことに努めていかなければならないだろうか?その答えは「格好良くあること」「皆が互いを尊重でき頑張れる環境をつくること」にあった。

 

誇り・魅力・格好良さを分かりやすく伝える

 

「格好良くあること」はこれまで述べた名尾氏の「嘘をつかないこと」「先陣切った行動力」に加え「仕事の誇り・魅力・格好良さを分かりやすく伝えること」を心掛けているという。

 

「この仕事の魅力は技術さえあれば日本全国どこ行っても、贅沢は別として考え、飯が食べられることです。この仕事が好きで向上心や探求心があれば、自分の技術でどこでもお金を稼ぐことが出来ます」。

 

加えて、お金を稼げることへの説明も分かりやすくオープンに従業員に説明してきているという。

 

「経営者は稼げる会社をつくらなければなりません。仕事の評価はあくまでお金です。名尾建では平均年収を上げることに傾注し、1,000万円稼げるスターを何人育てられるかが経営者の手腕とも言えます。5年後、私自身の年収を1億円にする目標を掲げておりそれを社員にも伝えております。もちろん現在の私の年収を社員は知っています。10年後の65歳は会社を引退する年ですが、引退後はその1億円が残る訳です。例えば20人に分けたら各自の年収は500万円上昇します。そういった形で、会社の数字を分かりやすく伝えておくことが経営者にとって大切な資質と言えます。」

 

従業員は、社長の体験や実績・約束を理解することで、仕事の魅力・誇り・格好良さを感じ、モチベーションに繋がっている。そして、見た目の格好良さにも徹底的にこだわる。

 

「ドカジャンは綿35%ポリエステル65%の最高級品のパイロットジャンパ。襟シャツは、ネイビー/ホワイトの2色を会社で支給し、汚れたらどんどん変えるように指導しています。髪型や靴も徹底指導です。自分からも相手からも格好いいと思われる品格を大事にしています」。

現場での集合写真(名尾社長提供)

社屋内従業員札(名尾社長提供)

 

 

皆が互いを尊重でき頑張れる環境をつくる

 

格好良い会社を築いていくことで従業員は「より格好いい自分」に向けて奮起している。それに加え名尾氏は「今の自分たちを尊重する」関わり合いにも注力している。

 

「現場での声の掛け合いを大切にしています。会話を重ねながら長く付き合っていくと、人柄が分かり合えて、何があっても許せる心を持てます。お互いに尊重し合えて自分の意見を言えるようにもなります。「なんて言えば相手は喜ぶかな」ではなく、自分の思ったことを正直に言い合う間柄。例えば手元にあるコップの色ひとつにしても「これは白です」「いやいや金だろ」と互いに見て感じていることを議論して成長に繋げられる関係性づくり。そのための努力は惜しみません」。

 

嘘をつかないことを体現している名尾氏は、従業員に対しても「自分の考えを持ち、素直に発言できる人材になってほしい」と普段から従業員とのコミュニケーションを大切にしていることを感じ取れた。

 

組織とは、入社歴やスキル、性格が異なる人達の集合体。その中で互いに尊重し合いながらも自分に強い信念を持つこと。この風土が組織力を高め、人材の成長・会社の成長に繋がっている。会社に希望を持ち自発的に成長する確かな環境が名尾建には確かにある。

 

1+1≠2

 

従業員一人ひとりの成長を促す環境にある名尾建。個の集合体としての組織力は、単純計算では導けない大きな相乗効果を生み出すことができる。

 

「1人+1人=2ではなく3にも4、それ以上のもっと大きな力を発揮することができるようになります。そのためには私が従業員一人ひとりと深く接し、考え方・性格・能力を理解しなければなりません。これは中小企業の経営者としての醍醐味でもあります」。

 

一人ひとりを尊重しつつも、その組み合わせから生まれる成果は決して単体を足したものではない。それが実現できているからこそ大きな成長を続けている名尾建であるが、持続的に成長を続けていくためには、強烈な信念が無いと実現できないであろう。

 

「名尾建の強みは『諦めないこと』です。どんなに忙しくとも仕事を絶対に断りません。今の人材数・機械や置き場などの環境全てを使ってどうやってやりこなすかを考えます。1回でも断ってしまうと緊張感が途絶えてしまいます。歯を食いしばりながら、どうやったら出来るかをこれまで考え動き続けてきました。それがこれまでの緊張感・成長にも繋がっています」。

 

自分なりの義理と筋を決めること

 

 

現在、名尾建の従業員の半数以上が30代以下で来期も3名の新卒が入社される予定である。人を育てる風土が浸透している名尾建は、今後も益々発展していくことであろう。

 

最後に今後の展望について伺うと、若者に対する期待が寄せられた。

 

「若い人がもっとガンガン行く姿を見たいです。『自分の考えが一番!』というある種の勘違いも大事です。人の顔色を伺わず素直に自分の意見を言え、かつ他人の意見も素直に耳を傾ける、そんな人材がもっと集まる格好いい会社をこれからも目指していきます」。

 

「なので若い人には自分なりの義理と筋を決めて、考えて生きていて欲しい。そうなれば誰しも必死になれます。何事も勝負事。強い競争心を持った男らしい人間になってほしいです。そのために私は経営者として必死に生き続け、お金で還元できる会社に育て、従業員に自立心と自信をつけさせる努力を続けていきます」。

 

 


 

編集後記

名尾社長とは今回の取材が初対面であった。しかしながら取材を進めて間もなくして、強く真っ直ぐな人柄に魅了され、気づけばあっという間に半日以上もの取材にお付き合いいただいた。年末多忙な時期にここまでお時間を割いていただいた名尾社長に厚く御礼を申し上げたい。

 

取材では、変わらない信念と過去の反省から得た教訓、教訓を活かした経営手法を中心にお話しいただいた。言葉の一つひとつに芯があり嘘がなく、そして思いやりがある。本記事を読んでいただいた方々に名尾社長や名尾建の真っ直ぐな魅力が伝われば何よりも嬉しく思う。

 

「自分なりの筋と義理を決めること」「嘘をつかない」「希望を持たせること」を実行され続けている名尾社長、並びに名尾建とのご縁を大切にさせていただきたいと思うとともに、私も一層誇り高く仕事に邁進していけるよう成長を目指していく。

(取材日2022年12月8日)