CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー
第34回 (株)デイテク
自社製品への憧れと技術革新が道を拓く
取材先 (株)デイテク(代表取締役 小林俊夫)
所在地 八王子市下恩方町308-22
電話 042-652-1335
e-mail info@daytech.co.jp
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NC加工機による精密加工から真空注型によるプラスチック成型まで、いち早くITの導入を図り、試作品の3次元データ作成やモデリング技術を駆使して様々な加工をこなす。それが株式会社デイテクである。最近では、その技術力をベースにオリジナル製品の開発も行うなど意欲的に事業活動を展開している。今回は、そんな(株)デイテクの代表取締役小林俊夫(こばやし・としお)さんに元気の秘密を伺った。 |
Everyday Inovation Technology
デイテクの創業は1968年に遡る。現社長の小林さんの父・増太郎(ますたろう)さんが立ち上げた、金属加工業・小林製作所がそもそもの始まりだ。当時は、八王子市千人町に構えた事業所を家族経営で切り盛りしていた。現社長の小林さんも工業高校の機械科を卒業すると、家業を継ぐべく、その一員となって働き始めた。
やがて経営を任されるようになると、小林さんは「これからの製造業は技術を磨いていかないといけない」と考えた。日々技術革新をしよう!――「Everyday Inovation Technology」。それがそのまま社名「デイテク」となった。さらに、多品種少量生産への対応と技術革新を追求しようと、1990年には下恩方工業団地内に工場社屋を移転した。その時「バブル崩壊」の影が忍び寄ってきていることは、一層の飛躍を目指して意気軒高の小林さんには知る由も無かった。
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危機を打開するために、一歩先を行く技術革新が必要だった
「あの頃は、モノをつくっていれば売れていた」と小林さんは振り返る1990年は、まだバブル経済の絶頂期。そんな時期に造成された下恩方工業団地には、約20社もの企業が入居していた。しかし、それもつかの間、1990年代中盤にはバブル経済崩壊の波が製造業を直撃、団地からの撤退を余儀なくされる企業も出る中、デイテクも仕事が激減していった。 「こんな時期だからこそ、一歩先を行かないと残れない」。存続の危機を肌身に感じた小林さんは、いち早く社内のIT化に踏み切った。「町工場というのは、本当に困らないと技術革新をしないものなんです」と謙遜するが、当時はパソコン、インターネットの普及率も低く、通信といえばコンピュータ通信を意味し、その通信料もまだ高かった時期である。そんな中での積極的な社内のIT化やインターネットへの接続、さらにはCAD/CAMの導入は、生き残りをかけた挑戦だった。 |
そして、その挑戦は見事に図面の3次元データ化やコンピュータグラフィックを活用したモデリングなどの技術の確立につながり、大手企業からの一点モノや少量生産モノなどの受注に成功、現在の高い評価を得ることにつながったのである。
オリジナル製品の製造へ
小林さんは、ものづくり中小企業のあり方として2つのことを大切にしている。
1つは、「リスクは回避するにこしたことは無い。けれど、守り一辺倒はもっと良くない」という攻めの姿勢である。デイテクは、金属精密加工だけでなく、真空注型による試作品の製造や、図面の3次元データ化技術を駆使したデータの作成から装置の設計もこなす。ユーザーからの多様な要求に応えられるよう体制を整えているのである。当然、機械設備への投資を始め、デイテクとして負うリスクも増える。それでも、「必要なリスクは積極的に負う」のである。
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もう1つは、「中小企業は自社製品への憧れを持っていなければいけない」という“夢”を持ち続ける姿勢である。日々アイデアを出し、製品開発に向けて模索を続ける中からは、実際にいくつかのオリジナル製品も生まれている。その代表が「のぶおくん」である。「のぶおくん」は、ドアノブに取り付けるだけで、より簡単にノブを回すことができる製品で、“役に立つおもしろグッズ”がそろっていることで知られる東急ハンズで販売されている。しかし、そうしたオリジナル製品開発を通じて、「ものを売ることの難しさ」も痛感しているという。「流通は流通の専門家に任せた方がよいと考えたが、実際にはモノが流通する過程で、マージンが上乗せされてしまう。結果、原価を相当抑えないと売れる製品ではなくなってしまう」。そうした経験から、「独自の販売網を築くことも大切だ」と気づき、現在ではホームページを活用したネット販売なども実践している。
デイテクのもう1つの顔、「リアルスタイル」
デイテクの売りのもう1つは工房「リアルスタイル」とそこで駆使する「Rapid Prototyping System」と名づけた3次元モデリングシステムである。 大手企業の新製品の開発では様々なデザイン案が検討される。その際、製品イメージをつかむためにデザイン図だけでなく、立体的な造形を確かめるために試作品も製造する。しかし、デザイン決定の段階での試作だ。コストは抑え、より早く立体的なイメージを確認したい。そうしたニーズに応えるために開設したのが「リアルスタイル」という工房だ。 |
ここでは、最新の3次元造形機を駆使し、CGで表現された立体図面をそのままABS樹脂でモデリングする。これが「RPS」である。まさに立体コピー機というイメージで、データさえ送れば、開発担当者は数時間のうちにデザインを立体的に確認することができるのだ。このモデリングで確認し、OKならばそのまま金型製作に移行…という流れになる。
このシステムは、機器やソフトウェアが揃っていればできる代物ではない。もともとCGデザイナーであった社員の臼井謙治(うすい・けんじ)さんの技術があってこそ実現できるものなのである。デイテクは、この技術をひっさげ、新分野を開拓している。
後継者育成に向けた熱意
デイテクの今後について、小林さんに聞いてみた。「今、ACT30という異業種交流グループに参加しています。その中から新たなビジネスアイデアが出ることを期待しているんです」と、新たな事業展開に向けて積極的に、異業種との交流の機会を活用していると答が返ってきた。
同時に、「経営者として自分の能力には限界がある。デイテクの技術を継承するためだけでなく、ものづくりを継承するために新しい感覚を持った人材を育成したい」と後継者育成にも積極的だ。この取材の途中から参加してくださった技術担当の山崎正人(やまざき・まさと)さんも小林さんが期待を寄せている社員の一人だ。
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「まだ、秘密は明かせない」が、山崎さんは画期的な新商品を開発中とのこと。「山崎さんには、新商品を開発したら独立してやってもらいたい」と語る社長の言葉に、単に自社を大きく発展させるということよりも、ものづくりの後継者を育てていきたいという熱い思いが感じられた。デイテクの精神は、こうして次代へと引き継がれていく。
編集後記
デイテクの工場内を見学すると、「本当に何でもやっている!」という印象だ。NC旋盤や放電加工機で金属を削っていると思えば、隣の開発室では精密な試験機の設計・組み立てを行っていた。ユーザーからの多様な要求に応えられるからこそ、この厳しい時代の中で元気に事業を行っていられるのだろう。
一方、千人町にある3Dモデリング部門「リアルスタイル」に伺った。担当は臼井さん1名で、黙々とCG作成を行っていた。他の企業からHPで自社製品をPRするためのCG作成依頼を受けたり、試作品のモデリングを行っている。
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圧巻は、3Dモデリングシステムである。かなり高価な機会らしいが、パソコン画面上に浮かび上がっているCGがすぐにABS樹脂のモデルが作られた。私たちが、下恩方から千人町へ移動する間に、「市のマーク」の立体モデルを作って見せてくださった(右の写真)。この技術とデイテクの金属加工技術との融合で、より競争力がアップすることだろう。
自社製品の製造や新境地の開拓と、これだけ努力しているデイテクだが、悩みの種としては自社製品の販売ルートの確保である。中小企業全般に言える事だが、せっかく良い製品を開発しても販売チャネルを開拓できず苦慮しているという話をよく聞く。製品をスムーズに世に送り出していく仕組みが求められている。
(取材日2002年2月14日)