CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第80回 (株)造研

生産現場のコスト削減に貢献する、切断機・緩衝材製造機メーカー

取材先 (株)造研(代表取締役 坂口 晃)

所在地 八王子市堀之内2-21-9

電話 042-675-2111

e-mail info@zouken.co.jp

URL www.zouken.co.jp/

代表取締役 増渕隆さん

大手メーカーからの開発請負業20有余年の実績を活かし、生産現場のコスト削減に貢献する“省力化機器メーカー”として脱皮、今年の秋には新コンセプトに基づく「エア緩衝材製造機」の販売を開始した(株)造研。

 今回は、時流に合わせた柔軟な事業経営と、積極的な製品開発により、この苦境を乗り切るべく邁進する増渕社長を訪れ、種々話を伺った。

 

 

「(株)造研」誕生

 「かつては市内大手電機メーカーに勤務していました。入社当時から、独立心は強かったと思います。現場の仕事にも若干物足りなさを感じていました。先に独立した魅力的な先輩がいまして、彼から声をかけられたのを機に退社、当時は若さに任せてがむしゃらに働きました」
 

ビジネスが少しずつ大きくなるにつれ、社長との間に、経営に対する考え方、方向性のずれを感じ始める。「いくら中小零細であっても会社を私物化してはいけない。会社は社長の個人資産を増やす道具ではなく、社会的使命を負った公的な存在であると。社員全員で目標を共有し、やりがいのある職場を作りたかった」。そうした考え方は「身内には事業を継承させない」という今の増渕社長の方針に相通じるものがある。

市内堀之内の大栗川沿いにある社屋

 その後、社長を1年がかりで説得、「造る」ことに特化し、その技術を「研き続ける」という思いを込め、「(株)造研」を立ち上げる。31才の時だった。
 当時、設計派遣の業態は多くあったが、特許調査から開始して仕様を決め、開発設計を経て試作までを一貫して請け負うところはさほど多くなかったこと、そして造研の開発力を大手に買われ、業績は着実に伸びていく。
 
 ところがバブル崩壊後の景気低迷に加え、急速に台頭する中国、台湾との価格競争の波にも晒され、売上に陰りが見え始める。
 
 
 

 

“自社ブランド”を夢見て

見た目もモダンなワイヤーストリッパ 

増渕社長には、創業時からある一つの夢があった。それは“メーカーになること”だ。とはいえ、これまで多くのメーカーの開発に携わり、金と時間をかけて開発しても“全然売れない”ものを山のように見てきた。「自社ブランド」を持つことのリスクを一番よく理解しているのも自分自身である。
そんな折、売り上げの3分の1を占めていた精密小型モーター関連の会社から、ある事業からの撤退話が持ち上がる。長年に渡り多くの研究費とマンパワーを注いだにも関わらず、なかなか「黒字化」の見通しの立たない「切断機」「ワイヤーストリッパ」「緩衝材製造機」の分野だ。「ここでやらないと、一生メーカーにはなれない」と判断した増渕社長。「開発請負型」の経営スタイルを改め、自社ブランドとしてこの商品の「製造販売権」を得るべく交渉を進めた結果、取引先から“出世払いでいいよ”と無償で権利を取得、まずは既製の4機種とオリジナル開発の4機種で自社ブランド製品の販売を開始する。
さらに、いくら「良い物」でも、販売する“難しさ”を認識していた増渕社長は、自社ではなく、「代理店」形式の別会社を立ち上げ、マーケティングや販売はそのパートナーに任せた。
「お客様やパートナーに恵まれ、とてもラッキーでした」と社長は語る。しかし、そのツキを呼び込んだのは、長年培った取引先への信頼と実績、そして“ものづくり”に賭ける増渕社長の真摯な態度と熱意があったからこそだろう。

廉価版の小型切断機「ZKC-16」 

 

 

 

“買い置き”スペースもコスト削減も同時に解消!エア緩衝材「パコ」

 この秋、造研では、クリーンなエア緩衝材を「必要な時、必要な分だけ簡易に作れる」というコンセプトの元、従来品に比べて半分程度の価格の卓上型エア緩衝材製造機『PACО(パコ)-140』を開発、発売を開始した。
 
 用途は、化粧品や医薬品、食品、酒類等の商品発送、発送・配送業務請負全般、製造業のロジスティクセンターや物流倉庫内での最終梱包作業、また市場が拡大しているインターネットオークションによる個人販売など多方面に活用できる。“買い置き”や保管スペースの無駄もなくせる。
 
 焼却しても有害な物質が発生しない、長さ1,000m、幅140mmのPET/PEの2層フィルムから、毎分Sサイズ(70mm)で55個、Mサイズ(110mm)で38個、Lサイズ(150mm)で28個の緩衝材を生産できる。小ロット対応の発送が増加している製造業などでは利便性とコスト削減に寄与しそうだ。
 
 先般開催された業界の展示会に出展したところ、反応は上々。今ならデモ機の一週間レンタルが可能で、実機での作業を体験できる。
 

“ジャイアンツカラ―”を意識したという「パコ」本体 

エアクッション製造中!

 

 

 

社長の背を見て、社員は育つ

工場内部。仕掛品が立ち並ぶ 

 中小企業の悩みの一つである「人」の問題について聞いてみた。「やはり会社を支えているのはここにいるスタッフです。こんな規模の会社にどうしてこれほど優秀な人たちが集まってくれるのか不思議です。学生時代のアルバイトが、一度就職した公務員を止めてまた戻ってきてくれたりと。中小企業に興味を持つ若者が少ない中、本当にありがたい話です。若い人材を確保することは、即ち、いかにそのご両親を説得できるかなんですね。
少し乱暴ですが、テレビCMや日経に出てこない会社は“会社ではない”と思われてますから」。
 若者を惹きつけるとは、さぞかし魅力的な経営理念があるのかと思いきや「特にないんです」とあっさり。「経営方針はその時代によって違いますから。おおよそ、社員がどうすれば喜び、悲しむかというのは、長年社長していると分かります」。

「親の背を見て子は育つ」ならぬ、「社長の背を見て、社員は育つ」。世の中の情勢に合わせて、柔軟に対応しようという中小企業ならではの利を活かす、増渕社長らしい姿勢だ。

 
編集後記
 
「物腰の柔らかい人」というのが、増渕社長に対する率直な感想である。言葉使いも丁寧で、話す姿勢も真摯だ。以前、ある助成金の話をしていた時、「私共のような会社が果たして皆様の税金を無償でいただいていいものか、長い間悩みました」という言葉がとても印象的だった。正にその姿勢こそ「企業経営者としての品格」であり、ステークホルダーから信頼を得る所以なのだろう。
リーマンショック以降、これまでに経験したことのない厳しい経営環境に置かれているのは他の企業と同様、造研も同じだ。そうした中、果敢に製品開発に取り組み、新たな事業展開を模索し続ける増渕社長を、今後も応援していきたい。
 
(取材日2009年12月1日)