CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー
第89回 (株)ケイアイ
『あなただけの“車いす”作ります!』
取材先 株式会社ケイアイ(代表取締役 北島伸高社長)
所在地 東京都八王子市小門町85-2
電話 042-622-7266
北島伸高さん
|
身体的なハンディを持った方や高齢者の方の活動を支える福祉用具「車いす」。現代では使う側のニーズに合わせた多機能のものやファッション性に富んだものまで様々な車いすが利用されている。
|
日本初の「車いす」を作った会社
「介護保険法」制定と突然の事業承継
そしてこの年、ケイアイは一つのターニングポイントを迎える。これまでのビジネス環境を一変させる「介護保険法」が制定されたのだ。
「この法律によって、福祉用具は購入よりもレンタルが優先になり、お客様にとっては今まで以上に安い金額で車いすを利用することができるようになりました。我が社が扱っているのは、あくまでもお客様ごとに仕様の異なるオーダーメイド。これまでの顧客の中心だった高齢者の方々が皆、保険が適用される量産タイプのレンタルに回ってしまい、それを境に売上はじりじり落ち込み、ピーク時の1/3近くまで激減しました。私が入社してから毎月のように一人、また一人と社員が減っていくんです。新人の私にも理解できる非常事態でした」。
当時、重荷となっていた自社工場をまずは閉鎖した。協力工場に頭を下げ、製造を外部委託、少しでも固定費を減らした。また、父の方針で踏み出せなかった「レンタル事業」にも進出した。
「当時は多くの苦労をしました。製造委託した企業からいくら待っても納品がないので調べてみたら夜逃げ同然の状況だったこともありました。当時はその1社しか外注先しかなく、一時期注文を受けても製造できないという状況もありました。営業から戻ってきた社員が『注文とってしまった』と残念そうに悔しがる姿は今でも忘れられません」
その後、様々な紆余曲折の中、北島社長の行動力と社員一丸となった経営努力の甲斐もあって、2007年には黒字を計上、以来現在まで増収増益を続けている。
「実は、利益が出るようになってからの方が大変です。赤字の時は『どうすれば赤字を無くせるか』だけが目標でしたが、黒字になると、それをどうやって維持、発展させていくかを考えなければなりませんので。売上を増やし経費を減らすということだけでは駄目なんですね」
自社工場で迅速にカスタマイズ
オーダーメイドの車いすを作る際、顧客の注文を聞いて細かい部分まで全て外注にするのには手間も時間もかかる。基本的な仕様部分については外注するにしても、顧客の利用状況に応じた“微調整”が直ぐにできることが、他社との差別化につながっている。
先代までは、子供向けの車いすは難度が高く取り組んでこなかったが、入社した当時施設で出会った筋ジストロフィーの子供たちの姿が今でも忘れられず、何か彼らのためにできることをしてあげたいとの一心で、数年前からチャレンジを始めている。
「難しい注文に応えられるということは自社技術の証明にもなります。そこで経験したノウハウはフィードバックされ、他の車いすの製造に必ず活かされると信じています」
『それって人としてどうなの?』
良い「仕事」をするうえで家族の理解と協力は欠かせない。ここぞという時に少しでも協力してもらうためには、社員だけではなく社員の家族、また外注先や取引先などステークホルダー全てに対して、感謝の気持ちを忘れない。
その結果、社員同士の仲間意識は非常に高い。社長に就任してからの離職率は12年間でわずか1名。全17名の社員層が比較的若いことを考えれば、これは驚異的である。
「就職希望者は、会社名(ブランド)や職種、待遇、勤務場所などを見て就職します。しかし離職する時の理由はほとんどが『人間関係』と『労働環境』。中小企業は、社名や規模では到底大企業には敵いませんが、人や環境を大事にすることなら勝てるかもしれません」
大手と競争するのではなく、中小企業の“良さ”を引き出す北島社長の信念がここにも表れている。
「遅刻するなら事前に必ず連絡を入れる。有給を取るなら社長ではなく担当部署の許可を取り引き継ぎや連絡をしておく。期限を守らなければ罰金。和を乱す気遣いなき行動も厳罰。どれも“人として当たり前のこと”です。でもその当たり前のことができない人が最近多くて困ってますが」
社員の子供の具合が急に悪くなった時、当社では即退社が許される。そして皆がそれをカバーし合う。明日は我が身、相手の立場に立ち、お互いを助け合うという意識がそこに徹底されている。今の時代だからこそ貴重な人間味あふれる経営を、北島社長にはいつまでも続けてもらいたい。
八王子市小門町にある事務所で、北島社長は長時間に渡るインタビューに快く応えてくれた。今回の記事以外にも、新人社員の育成や「仕事」に対する考え方など、入社3年目の私自身身にしみる示唆を沢山頂いた。「黒字化できたのは運が良かっただけ」と言う北島社長だが、もちろん日々努力していない者に運などやってこない。「未来が不確定だからこそ、今できることをきちんとやり、これから起こる運命を受け入れる」。その姿勢こそ、北島社長の強さであり、ケイアイの強さに繋がっているのだと思う。
|